今、死というものに、真剣に向かい合っているあなたへ。
あなたは、安楽死について、どう思いますか?
私は、アリだと思うんです。
もちろん、むやみやたらに命を絶つ、っていう意味じゃないです。
所謂、尊厳死です。
尊厳死は、本来、
どんな生き物にでも尊重されてよいものと考えています。
いろんな考え方があっていいと思うんです。
ただ、選択肢のひとつとして、あってもいいんじゃないでしょうか。
いや、時には、選択すべき時も、あるんじゃないでしょうか…。
私、小森谷薫は、
大切な愛犬の苦しむ姿を見て、
この子の苦しみを救えるのは自分しかいないと思い、
主治医になると決め、進路変更して資格を取り、
国家試験に受かり、獣医師になり、
主治医として、ずっと診ていました。
そして、その子が命を終える時、
大切な愛犬の苦しむ姿を見て、
この子の苦しみを救えるのは自分しかいないと思い、
とてつもなく悩んだ末に、尊厳死を選択し、
この子の命を絶ちました。
気が狂いそうな選択でした。
事実、家族は、
私がこのまま死んでしまうのではないかと思ったそう。
もちろん、本気で考えていました。
わが子のように、かわいがっていましたから。
16年以上も連れ添った、何よりもかけがえのない、大切な子。
溺愛っぷりは、半端じゃありませんでした。
あの子のおかげで、
どれだけ計り知れない程のしあわせがあった事か。
そんな大切な子を、自分の手で旅立たせることが、
どれだけつらい事か・・・
これは、経験した者にしか、絶対にわからない苦しみです。
そして、私が一生背負っていく、痛みでもあります。
でもそれは、あの時の最善の選択だったんです。
もっと他に方法があったんじゃないか、もっと他に助ける方法が・・・
亡くなった後も繰り返し反芻し、波のように押し寄せる葛藤で、
頭がおかしくなりそうでした。
それでも、もうあれ以上、あの子を苦しませる事は出来なかった。
それは、たぶん獣医師としてではなく、ひとりの飼い主として、
あの子の声が聞こえたから。
世の中に、本当に深い痛みを共有できる人って、
どのくらいいるんでしょう。
簡単な慰めや、軽々しい言葉をかけるくらいなら、
そっとしておいてくれた方がマシ。
私は、自らの愛犬の命を絶った獣医師として、
また動物病院始め、と畜場など、数多くの動物の最期のみならず、
愛する父を始めとし、大好きな人達の最期にも、
たくさん立ち会った者として、
今、大切な家族の死に、何らかの形で向き合っていらっしゃる方、
最善の選択は、延命なのか尊厳死なのか、迷われていらっしゃる方、
また、死からなかなか立ち直れずに苦しんでいらっしゃる方、
そういうあなたのお力になれる事が、きっとあると思うのです。
聞いてほしい事、
踏み込まれたくない事、
誰もがそれぞれ違います。
死というものに、心が砕かれる思いをしながらも、
時に深い痛みを感じながらも、
時にやってくる、どうしようもない寂寥感に、
このまま消えて、なくなってしまうのではないかと思いながらも。
それでも、生きていく事を選択し、
今、死というものに、
いろんな角度から真剣に向かい合っているあなたへ。
その痛みに、そっと寄り添いたい。
今の苦しみにも、そっと寄り添いたい。
尊厳死が、いい選択ではないかもしれないし、
延命が、悪い選択ではないかもしれない。
死を目前にしたら、誰もが迷い悩むのが、あたりまえなんです。
様々な角度から、気が狂いそうになりながらも、
人の死、動物の死、
いくつもの死に立ち会ってきた私に、
何か感じるものがあれば、
少しでもこうした経験が
お役に立てる事があればいいなと思っています。
踊る獣医師
小森谷薫